宅建士 参考書|第2章 権利関係

時効

時効は援用して使う

時効には、一定期間の占有によって権利を取得する取得時効と、権利を行使しない状態が続くことで権利が消滅する消滅時効があります。

時効期間が経過しても、裁判所が自動的に時効を適用するわけではありません。時効による利益を受ける者が時効を援用して、時効を利用する意思を示す必要があります。

時効の効力は起算日にさかのぼります。また、時効の利益は時効完成前には放棄できません。将来は時効を主張しないという約束をあらかじめしても、時効利益の放棄としては効力がありません。

時効は援用が必要。効力は起算日にさかのぼり、完成前の利益放棄はできません。

取得時効は10年か20年

所有権を時効取得するには、所有の意思をもって、平穏かつ公然と他人の物を占有し続けることが必要です。賃借人や預かり主のように、他人の物として占有する他主占有のままでは所有権を時効取得しません。

占有開始時の状態期間
善意かつ無過失10年
悪意または過失あり20年

善意・無過失かどうかは占有を開始した時で判断します。善意無過失で占有を始めた者が、その後に真の所有者が別にいることを知っただけで、10年の期間が20年に変わるわけではありません。

占有を承継した者は、自分の占有だけを主張することも、前の占有者の占有と合わせて主張することもできます。前の占有を合わせる場合は、その占有の瑕疵も承継します。判例は、前占有者が占有開始時に善意無過失であれば、承継人が後に悪意となっていても、前後を合わせた占有が10年に達すれば10年の取得時効が成立し得るとしています。

相続による占有承継でも、被相続人の占有期間を合わせて主張できます。占有者が任意に占有を中止したときや他人に占有を奪われたときは、それまでの占有を継続した取得時効として扱えません。

取得時効は自主占有が前提。開始時に善意無過失なら10年、それ以外は20年です。

債権は5年と10年で判定

通常の債権は、次の二つの期間のうち先に満了する方で消滅時効が完成します。

起算点期間
債権者が権利を行使できることを知った時5年
客観的に権利を行使できる時10年

例えば、弁済期を知っている貸金債権では、通常は弁済期から5年が問題になります。一方、所有権そのものは消滅時効によって消滅しません。

債権と所有権以外の財産権には、原則として権利を行使できる時から20年という規定があります。不法行為による損害賠償請求権には別の時効期間があるため、この通常の債権の表だけで判断しません。

通常の債権は「知って5年」と「行使できて10年」の早い方。所有権は時効消滅しません。

完成猶予と更新を分ける

完成猶予は、一定期間、時効期間が満了しても時効を完成させない制度です。更新は、それまでの時効期間を使えなくし、新しい時効期間を初めから進行させる制度です。

事由主な効果
裁判上の請求・支払督促・裁判上の和解や調停等手続中は完成猶予。確定判決等で権利が確定すれば手続終了時から更新
上記手続が権利確定なしで終了終了時から6か月を経過するまで完成猶予
強制執行等手続中は完成猶予し、原則として手続終了時から更新。取下げ等では終了後6か月までの完成猶予
仮差押え・仮処分手続終了時から6か月を経過するまで完成猶予
催告催告時から6か月を経過するまで完成猶予。更新はしない
権利についての協議を行う旨の書面等による合意法律所定の期間、完成を猶予する
権利の承認承認時から新しい時効期間が進行する

催告による6か月の完成猶予中に、同じ催告を繰り返しても、さらに完成猶予の期間を延ばすことはできません。必要なら、その間に裁判上の請求など別の手続をとります。

権利の承認による更新には、相手方の権利についての処分につき行為能力や権限を有することは必要ありません。また、夫婦の一方が他方に対して持つ権利は、婚姻解消から6か月を経過するまで時効が完成しません。

完成猶予は完成を待たせ、更新は数え直し。催告は6か月、承認は更新です。

誰が援用できるか

消滅時効は債務者だけが援用するものではありません。保証人、物上保証人、第三取得者その他その権利の消滅について正当な利益を持つ者も援用できます。

一方、時効によって反射的・間接的に利益を受けるだけでは足りません。判例は、後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を当然には援用できないとしています。これに対し、詐害行為の受益者については、被保全債権の消滅に正当な利益を持つ場合に援用を認めています。

主債務者が時効完成後に時効利益を放棄しても、その効果が保証人に当然に及ぶわけではありません。また判例は、債務者が時効完成後に債務を承認した場合、完成を知らなかったとしても、その後にその完成した時効を援用することは信義則上許されないとしています。ただし、その承認後には再び時効が進行します。

保証人など正当な利益を持つ者は援用可能。完成後の債務承認はその時効の援用を妨げます。

取得時効と登記の関係

不動産の取得時効と第三者の関係では、第三者が時効完成の前に現れたか、完成後に現れたかを分けます。

第三者の権利取得時期時効取得者の扱い
時効完成前判例は、時効取得者が第三者へ時効取得を主張するのに登記を必要としないとしています
時効完成後第三者との関係は対抗問題となり、時効取得者が第三者へ所有権を対抗するには原則として登記が必要です

例えば、Bの取得時効が完成した後、登記をしないうちに原所有者AがCへ土地を譲渡し、Cが先に登記をした場合、Bは最初に完成した取得時効による所有権をCに対抗できません。

ただし判例は、Cの登記後もBがさらに取得時効に必要な期間の占有を続けたときは、Bは再度の取得時効をCに登記なく対抗できるとしています。また、時効完成後に抵当権設定登記がされた場合でも、その後さらに時効取得に必要な期間の占有が続き、抵当権の存在を容認したなどの特段の事情がなければ、再度の取得時効によって抵当権が消滅することがあります。

完成前の第三者には登記不要、完成後の第三者とは原則として登記で対抗関係を決めます。

本番の形で解いてみる

基本の問題(まなクエの問題集から)

取得時効について正しいものはどれか。

  1. 善意無過失で占有を開始した場合は5年で取得時効が完成する
  2. 取得時効の占有者は、自分に有利な任意の時点を時効の起算点として選ぶことができる
  3. 所有の意思のない占有では取得時効は完成しない
  4. 他主占有も取得時効の要件を満たす
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正解: 所有の意思のない占有では取得時効は完成しない

取得時効には所有の意思のある占有(自主占有)が必要であり、所有の意思のない占有(他主占有)では取得時効は完成しない(民法162条)。時効の起算点は占有を開始した時点で定まり、占有者が自分に有利な時点を任意に選ぶことはできない。

基本の問題(まなクエの問題集から)

占有者が占有を引き継いだ場合の取得時効について正しいものはどれか。

  1. 前の占有者の占有期間を合算することはできない
  2. 占有を引き継いだ場合、引継ぎ時から新たに時効が進行する
  3. 前占有者の占有を承継して時効期間に加える場合でも、前占有者の占有の瑕疵は承継しない
  4. 前の占有者の占有を引き継いだ場合、前の占有者の瑕疵も引き継ぐ
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正解: 前の占有者の占有を引き継いだ場合、前の占有者の瑕疵も引き継ぐ

占有の承継(民法187条):前の占有者の占有を併せて主張する場合、前占有者の占有の瑕疵(悪意・過失等)も承継する。自己の占有のみを主張することもできる(この場合は自己の占有のみで判断)。

事例で判断する問題(この節のために作った問題)

A所有の土地をBが所有の意思をもって平穏かつ公然に20年間占有し、取得時効が完成したが、Bは登記をしていない。その後Aが土地をCに売却し、Cが所有権移転登記をした。Bが最初に完成した取得時効による所有権をCに主張できるか。最も適切なものはどれか。

  1. Bは時効完成だけで常にCに対抗でき、登記は不要である
  2. Cが時効完成後に権利を取得した第三者であるため、BはCより先に登記を備えていなければ、最初の取得時効による所有権をCに対抗できない
  3. 取得時効による所有権は第三者には一切対抗できない
  4. Cが登記をした後も、Bには再度の取得時効が成立する余地はない
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正解: Cが時効完成後に権利を取得した第三者であるため、BはCより先に登記を備えていなければ、最初の取得時効による所有権をCに対抗できない

時効完成後に原所有者から権利を取得した第三者との関係は対抗問題となり、時効取得者は原則として登記がなければ対抗できません。ただし第三者の登記後もさらに時効取得に必要な期間を占有すれば、再度の取得時効が成立する余地があります。

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出典: e-Gov法令検索「民法」。このページの法令は令和8年(2026年)4月1日現在の法令にもとづきます(e-Govで確かめた日 2026年10月11日)。このページの作り方と確かめ方