宅建士 参考書|第2章 権利関係
不法行為・事務管理・不当利得
不法行為の基本
不法行為は、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害し、それによって損害を生じさせた場合に成立します。契約関係がない相手に対しても成立します。
金銭債権などの債権を第三者が違法に侵害した場合でも、要件を満たせば不法行為責任が成立します。債権だから第三者の不法行為が成立しない、という判断はできません。
未成年者でも、自己の行為の責任を弁識する知能があれば不法行為責任を負います。責任能力がない未成年者などが責任を負わない場合には、法定の要件を満たす監督義務者などの責任が問題になります。ただし、同居している配偶者だからというだけで当然に法定の監督義務者になるわけではありません。
判例は、建物の設計者・施工者等は、建物の基本的な安全性を欠くことがないよう配慮すべき注意義務を居住者等に対して負い、その義務違反により生命・身体・財産を侵害した場合には不法行為責任を負い得るとしています。また、名誉権が違法に侵害される場合には、人格権に基づく差止めが認められることがあります。
契約がなくても、故意・過失による権利・利益侵害と損害・因果関係があれば不法行為が成立します。
使用者責任と求償
被用者が事業の執行について第三者に損害を与えた場合、使用者は原則として損害賠償責任を負います。被用者に故意があった場合だから使用者責任がなくなる、ということではありません。
ただし、使用者が被用者の選任と事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生じるはずであったときは、使用者は免責されます。使用者に代わって事業を監督する者にも同じ責任が定められています。
使用者が被害者へ賠償した場合、被用者への求償が一切禁止されているわけではありません。判例は、事業の性格、業務内容、労働条件、加害行為の態様、使用者による損失分散への配慮などを考慮し、信義則上相当な限度で求償できるとしています。
反対に、被用者が第三者へ損害を賠償した場合も、判例は、損害の公平な分担という観点から相当と認められる額を使用者へ求償できるとしています。
事業執行中の被用者の不法行為は使用者責任が問題となり、相互の求償は相当な範囲に限られます。
工作物責任と共同不法行為
土地の工作物の設置または保存に瑕疵があり他人に損害が生じた場合は、まず工作物の占有者が責任を負います。賃借人が建物を現実に占有している場合には、その賃借人が占有者として責任を問われることがあります。
占有者が損害発生を防止するために必要な注意をしていたときは、所有者が責任を負います。所有者については、占有者のような「必要な注意をした」という免責規定はありません。損害の原因について別に責任を負う者がいるときは、占有者または所有者からその者への求償も認められます。
数人が共同の不法行為によって損害を加えた場合は、各自が連帯して賠償責任を負います。共同行為者のうち誰の行為が実際の損害を生じさせたか分からない場合も同様で、教唆者・幇助者も共同行為者として扱われます。
工作物はまず占有者、必要な注意を尽くした占有者は免責され、そのときは所有者が責任を負います。
損害額と時効
被害者にも過失がある場合、裁判所はその過失を考慮して損害賠償額を減額できます。これが過失相殺です。
被害者が不法行為と同じ原因によって利益も受け、その利益と損害との間に対応関係がある場合には、その利益を考慮して損害額を調整することがあります。一方、判例上、損害保険金を受け取ったことだけを理由に、その保険金を損益相殺として損害額から控除するものではありません。
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、通常は次のとおりです。
| 起算点 | 期間 |
|---|---|
| 被害者または法定代理人が損害と加害者を知った時 | 3年 |
| 不法行為の時 | 20年 |
人の生命または身体を害する不法行為では、「知った時から3年」が5年になります。不法行為の時から20年という期間は変わりません。工作物責任による人身損害でも、この生命・身体侵害の時効期間が問題になります。
不法行為は原則「知って3年・行為から20年」。生命・身体侵害は「知って5年」です。
事務管理は義務なく他人のため
事務管理は、法律上の義務がないのに他人のために事務の管理を始めることです。管理者は、その事務の性質に従い、本人の利益に最も適合する方法で管理し、本人の意思を知っているか推知できるときはその意思に従います。
管理を始めたことは、本人がすでに知っている場合を除き、遅滞なく本人へ通知します。本人から求められれば事務処理の状況を報告し、事務が終了すれば経過と結果を報告する義務があります。
本人、相続人または法定代理人が管理できるようになるまで、原則として事務管理を続けます。ただし、継続が本人の意思に反し、または本人に不利であることが明らかなときは続ける必要はありません。
本人の身体・名誉・財産に対する急迫の危害を避けるための緊急事務管理では、管理者は悪意または重大な過失がなければ、その管理によって生じた損害について責任を負いません。通常の場合と同じ注意義務をそのまま当てはめるのは誤りです。
管理者が本人のために有益な費用を支出したときは、その償還を請求できます。ただし、本人の意思に反して管理した場合は、本人が現に利益を受けている限度に制限されます。事務管理には、管理をしたこと自体について当然に報酬を請求できるという規定はありません。
また、自分が負う契約上の義務を履行しているだけの者は、単にその仕事が第三者の利益にもなったというだけで「義務なく他人のために管理した者」になるわけではありません。
事務管理は「義務なく他人のため」。有益費は償還でき、緊急時は悪意・重過失がなければ責任を負いません。
不当利得は原因のない利益を返す
不当利得は、法律上の原因がないのに他人の財産または労務によって利益を受け、そのために他人へ損失を与えた場合に、その利益を返還させる制度です。
善意の受益者は、原則として利益が現に残っている限度で返還します。法律上の原因がないことを知っている悪意の受益者は、受けた利益に利息を付して返還し、なお損害があるときはその損害も賠償します。
契約上の請求権や事務管理の費用償還請求権がある場面を、すぐ不当利得で処理するものではありません。誰が誰に対して、どの法律関係に基づく請求をしているかを分けて判断します。
不当利得は「法律上の原因なし・受益・損失」。善意は現存利益、悪意は利息等も返します。
本番の形で解いてみる
基本の問題(まなクエの問題集から)
不法行為の成立要件として正しいものはどれか。
- 故意のみが不法行為の成立要件であり過失は含まれない
- 故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害し、それによって損害を生じさせた場合には、不法行為責任が成立し得る
- 不法行為が成立するためには損害が発生していなくてもよい
- 未成年者は不法行為責任を負わない
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正解: 故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害し、それによって損害を生じさせた場合には、不法行為責任が成立し得る
不法行為(民法709条):故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害し、それによって損害を生じさせた場合に、不法行為責任が成立し得る。単に『故意・過失で誰かに損害を与えれば不法行為が成立する』というものではなく、権利または法律上保護される利益の侵害と、損害との間の因果関係が必要である。責任能力がある未成年者も責任を負う。
基本の問題(まなクエの問題集から)
使用者責任について正しいものはどれか。
- 被用者が事業の執行について第三者に損害を与えた場合、使用者は原則として責任を負う。ただし、被用者の選任・事業の監督について相当の注意をした場合などには例外がある
- 使用者責任は被用者の故意による行為には適用されない
- 使用者は被用者の行為について常に責任を負う
- 使用者が損害賠償をした場合、被用者に求償できない
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正解: 被用者が事業の執行について第三者に損害を与えた場合、使用者は原則として責任を負う。ただし、被用者の選任・事業の監督について相当の注意をした場合などには例外がある
使用者責任(民法715条):被用者が事業の執行について第三者に損害を与えた場合、使用者は原則として責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、またはその注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者は責任を免れる(免責事由)。『使用者は必ず責任を負う』と断定できるわけではない。使用者が損害賠償をした場合、被用者への求償は可能(信義則上制限される場合がある)。
事例で判断する問題(この節のために作った問題)
Aが所有しBに賃貸している建物で、保存の瑕疵により外壁の一部が落下し、通行人Cが負傷した。建物を占有するBは、損害の発生を防止するために必要な注意をしていた。この場合の工作物責任について最も適切なものはどれか。
- Bは占有者である以上、必要な注意をしていても必ず責任を負う
- Bが必要な注意をしていた場合、所有者AがCに対して損害賠償責任を負う
- Bが賃借人である以上、AもBも工作物責任を負わない
- 所有者Aは自ら過失がなかったことを証明すれば工作物責任を免れる
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正解: Bが必要な注意をしていた場合、所有者AがCに対して損害賠償責任を負う
工作物の設置・保存の瑕疵による損害はまず占有者が責任を負いますが、占有者が必要な注意をしていた場合は所有者が責任を負います。所有者には同じ免責規定はありません。
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読んだところを、問題で思い出してみましょう。
宅建の問題を解く →出典: e-Gov法令検索「民法」。このページの法令は令和8年(2026年)4月1日現在の法令にもとづきます(e-Govで確かめた日 2026年10月11日)。このページの作り方と確かめ方