登録販売者 参考書|第1章 医薬品に共通する特性と基本的な知識

薬害と主な訴訟

薬害は適正使用でも起こり得る

医薬品は人体にとって本来は異物であり、効能・効果だけでなく有害な作用を生じることがあります。副作用には、眠気や口渇のような比較的よく見られるものから、死亡や日常生活に支障を来すほど重大なものまであります。

また、副作用には、それまでの使用経験で知られているものだけでなく、科学的に解明されていない未知のものもあります。そのため、医薬品を十分注意して使用しても、副作用による健康被害が起こることがあります。

一般用医薬品の販売に従事する専門家も、過去の薬害事件を理解し、情報提供や副作用報告などを通じて健康被害の拡大防止に関わります。

薬害は「注意して使えば起こらない」のではなく、適正に使用しても起こり得ます。

サリドマイド訴訟

サリドマイド訴訟は、催眠鎮静剤等として販売されたサリドマイド製剤を妊婦または妊娠していると思われる女性が使用し、出生児に四肢欠損、耳の障害などの先天異常であるサリドマイド胎芽症が生じたことに対する損害賠償訴訟です。サリドマイドは催眠鎮静成分として承認され、その鎮静作用を目的として胃腸薬にも配合されました。

項目内容
胎児への移行血液-胎盤関門を通過して胎児へ移行
副作用の作用血管新生を妨げる
結果細胞分裂が正常に行われず、器官が十分に成長しない
光学異性体血管新生を妨げる作用はS体、鎮静作用はR体が有するとされる

R体だけを分離して製剤化しても催奇形性は避けられません。摂取後にR体とS体が体内で相互に転換するためです。

1961年11月に西ドイツのレンツ博士が催奇形性を警告し、西ドイツでは製品が回収されました。日本では同年12月に勧告が届いていましたが、出荷停止は1962年5月、販売停止と回収は同年9月であり、対応の遅さが問題となりました。この薬害を受け、WHO加盟国を中心に市販後の副作用情報を収集する体制の整備が進みました。

サリドマイドは「血液-胎盤関門→血管新生阻害→先天異常」、R体だけにしても回避できません。

スモン訴訟

スモン訴訟は、整腸剤として販売されていたキノホルム製剤を使用し、亜急性脊髄視神経症に罹患したことに対する損害賠償訴訟です。キノホルム製剤には、過去に一般用医薬品として販売されていたものもあります。

項目内容
初期症状腹部の膨満感から激しい腹痛を伴う下痢
その後下半身の痺れ、脱力、歩行困難など
進行時麻痺が上半身へ拡がることがあり、視覚障害から失明に至ることもある

1958年頃から消化器症状を伴う特異な神経症状が報告され、米国では1960年にアメーバ赤痢への使用に限ることが勧告されました。日本では1970年8月に原因がキノホルムであるとの説が発表され、同年9月に販売が停止されました。

訴訟は1971年に国と製薬企業を被告として提起され、1979年9月に全面和解が成立しました。サリドマイド訴訟とスモン訴訟を契機として、1980年に医薬品副作用被害救済制度が創設されました。

スモンは「整腸剤キノホルム→亜急性脊髄視神経症」、制度は1980年の医薬品副作用被害救済制度です。

HIV訴訟

HIV訴訟は、血友病患者が、HIVの混入した原料血漿から製造された血液凝固因子製剤の投与を受けてHIVに感染したことに対する損害賠償訴訟です。

国と製薬企業を被告として大阪地裁と東京地裁に提訴され、1996年3月に両地裁で和解が成立しました。和解後、国はHIV感染者への恒久対策として、エイズ治療・研究開発センターや拠点病院の整備、治療薬の早期提供などを進めています。

HIV訴訟後に進められた主な対応
製薬企業への感染症報告の義務づけ
緊急に必要な医薬品を迅速に供給する「緊急輸入」制度の創設
血液製剤の検査や献血時の問診の充実
薬事行政組織の再編、情報公開、健康危機管理体制の整備

1999年には「誓いの碑」が建立され、サリドマイド、スモン、HIV感染のような医薬品による悲惨な被害を繰り返さず、医薬品の安全性・有効性を確保する決意が示されました。

HIV訴訟は「血友病患者+血液凝固因子製剤」、その後は感染症報告・緊急輸入・血液製剤対策です。

CJD訴訟

CJD訴訟は、脳外科手術などに用いられたヒト乾燥硬膜を介してクロイツフェルト・ヤコブ病に罹患したことに対する損害賠償訴訟です。

項目内容
原因細菌でもウイルスでもないタンパク質の一種であるプリオン
病態プリオンが脳の組織に感染する
症状・経過次第に認知症に類似した症状が現れ、死に至る重篤な神経難病

国、輸入販売業者、製造業者を被告として提訴され、2002年3月に和解が成立しました。その後の2002年の薬事法改正に伴い、生物由来製品の安全対策強化と、生物由来製品による感染等被害救済制度の創設などが行われました。

CJDは「ヒト乾燥硬膜+プリオン=タンパク質」、救済制度は生物由来製品による感染等被害救済制度です。

C型肝炎訴訟

C型肝炎訴訟は、出産や手術の際に特定のフィブリノゲン製剤または血液凝固第Ⅸ因子製剤の投与を受け、C型肝炎ウイルスに感染したことに対する損害賠償訴訟です。

国と製薬企業を被告として、2002年から2007年にかけて5つの地裁で提訴されました。5つの判決では、国と製薬企業が責任を負うべき期間などについて判断が分かれました。

感染者の早期・一律救済のため、議員立法により2008年1月に特別措置法が制定、施行されました。また、薬害再発防止に関する最終提言を受け、医師、薬剤師、法律家、薬害被害者などで構成される医薬品等行政評価・監視委員会が設置されました。

訴訟原因となった医薬品等主な制度・対策
サリドマイドサリドマイド製剤副作用情報収集体制の整備
スモンキノホルム製剤医薬品副作用被害救済制度
HIV血液凝固因子製剤感染症報告、緊急輸入、血液製剤対策
CJDヒト乾燥硬膜生物由来製品による感染等被害救済制度
C型肝炎特定フィブリノゲン製剤・血液凝固第Ⅸ因子製剤2008年の特別措置法、医薬品等行政評価・監視委員会

訴訟名だけでなく、「原因となったもの」と「その後の制度・対策」を3点セットで対応させます。

本番の形で解いてみる

本番の形の問題(五肢択一・この節のために作った問題)

薬害及び主な訴訟に関する次の記述の正誤について、正しい組合せはどれか。

  • a 医薬品の副作用による健康被害は、十分注意して使用した場合でも起こり得る。
  • b サリドマイドの血管新生を妨げる作用はS体が有するとされ、R体のみを製剤化すれば催奇形性を避けることができる。
  • c スモン訴訟は、整腸剤として販売されたキノホルム製剤の使用によって亜急性脊髄視神経症に罹患したことに対する訴訟である。
  • d CJDは、細菌でもウイルスでもないタンパク質の一種であるプリオンが原因とされる。
  1. a正 b正 c正 d誤
  2. a正 b誤 c正 d正
  3. a誤 b正 c正 d正
  4. a正 b誤 c誤 d正
  5. a誤 b誤 c正 d正
答えと解説を見る

正解: a正 b誤 c正 d正

a、c、dは正しい記述です。bは誤りです。血管新生を妨げる作用はS体が有するとされますが、摂取後にR体とS体が体内で相互に転換するため、R体のみを分離して製剤化しても催奇形性は避けられません。まちがえやすい点:R体=鎮静作用、S体=血管新生阻害と覚えるだけでなく、体内で相互転換する点まで確認します。

本番の形の問題(五肢択一・この節のために作った問題)

次の記述のうち、正しいものの組合せはどれか。

  • a HIV訴訟は、血友病患者がHIVの混入した原料血漿から製造された血液凝固因子製剤の投与を受け、HIVに感染したことに対する損害賠償訴訟である。
  • b CJD訴訟は、脳外科手術等に使用されたウシ乾燥硬膜を介してCJDに罹患したことに対する損害賠償訴訟である。
  • c C型肝炎訴訟では、2008年1月に厚生労働省令によって特別措置法が制定された。
  • d サリドマイド訴訟とスモン訴訟を契機として、1980年に医薬品副作用被害救済制度が創設された。
  1. aとb
  2. aとc
  3. aとd
  4. bとc
  5. cとd
答えと解説を見る

正解: aとd

正しいのはaとdです。bは「ウシ乾燥硬膜」ではなく「ヒト乾燥硬膜」です。cは、C型肝炎感染者の早期・一律救済のため、議員立法によって2008年1月に特別措置法が制定、施行されました。まちがえやすい点:CJD=ヒト乾燥硬膜、C型肝炎=特定フィブリノゲン製剤・血液凝固第Ⅸ因子製剤です。

本番の形の問題(五肢択一・この節のために作った問題)

登録販売者試験の学習相談で、受験者が薬害訴訟とその後の対応を整理しています。最も適切な説明はどれか。

  1. スモン訴訟を契機として、生物由来製品による感染等被害救済制度が創設されたと整理する。
  2. HIV訴訟を契機として、血液製剤の安全確保対策として検査や献血時の問診の充実が図られたと整理する。
  3. CJD訴訟を契機として、1980年に医薬品副作用被害救済制度が創設されたと整理する。
  4. C型肝炎訴訟を踏まえて、製薬企業に感染症報告を義務づける改正薬事法が1996年に成立したと整理する。
  5. サリドマイドによる薬害を受け、2008年1月に感染者の早期・一律救済を目的とする特別措置法が制定されたと整理する。
答えと解説を見る

正解: HIV訴訟を契機として、血液製剤の安全確保対策として検査や献血時の問診の充実が図られたと整理する。

HIV訴訟を契機として、血液製剤の安全確保のため検査や献血時の問診の充実が図られました。スモン訴訟などを契機としたのは医薬品副作用被害救済制度、CJD訴訟を契機としたのは生物由来製品による感染等被害救済制度です。感染症報告の義務づけはHIV訴訟後の改正薬事法、2008年1月の特別措置法はC型肝炎感染被害者の救済に関するものです。まちがえやすい点:各訴訟と制度・対策の組合せを入れ替えた肢に注意します。

出典: 厚生労働省「登録販売者試験問題の作成に関する手引き(令和8年4月)」(令和4年3月作成・令和8年4月一部改訂)。このページの内容は令和8年4月一部改訂の手引きにもとづきます(確かめた日 2026年10月12日)。過去の試験の出題は、東京都・関西広域連合・福岡県の令和5〜7年度の公開問題から数えました。このページの作り方と確かめ方