宅建士 参考書|第2章 権利関係
弁済・相殺・債権譲渡
誰に弁済すれば有効か
弁済は、債務者が債権者に債務を履行することで、その範囲で債権を消滅させるものです。原則は債権者など弁済を受領する権限のある者に弁済します。
受領権限がない者でも、取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者に弁済した場合、弁済者がその者に権限がないことを知らず、かつ知らないことに過失がなければ有効です。
したがって、真の相続人ではない者が相続人らしい外観を備えている場合なども、この要件を満たせば弁済が有効となり得ます。一方、単に無権限者へ渡しただけなら当然に有効になるわけではありません。
受領権者でない者にした弁済でも、その弁済によって真の債権者が実際に利益を受けたときは、その利益を受けた限度で有効です。例えば無権限者を経由した金銭が最終的に債権者へ渡れば、その限度で債権は消滅します。
外観ある受領者への弁済は「善意・無過失」なら有効です。
第三者弁済と弁済による代位
債務は原則として第三者も弁済できます。ただし、債務の性質が第三者による履行を許さない場合や、当事者が第三者弁済を禁止・制限している場合は別です。
弁済について正当な利益を持たない第三者は、原則として債務者の意思に反して弁済できません。ただし、債務者が反対していることを債権者が知らなければ、その制限を受けません。また、この第三者は原則として債権者の意思にも反して弁済できません。
保証人や物上保証人などが債務者のために弁済すると、債権者に代位します。代位により、求償できる範囲で、債権者が持っていた債権や抵当権などの担保権を行使できます。
この「弁済による代位」と、抵当権が目的物の売却代金・賃料などへ及ぶ「物上代位」は別の制度です。
保証人が弁済すると、求償のため債権と担保権に代位します。
相殺できる基本条件
相殺は、二人が互いに同種の目的を持つ債務を負う場合に、対当額で双方の債務を消滅させる制度です。相殺を申し出る側が持つ債権を自働債権、相殺される側の債権を受働債権と呼びます。
相殺は一方から相手方への意思表示だけで行え、相手方の承諾は要りません。相殺の意思表示に条件や期限を付けることはできず、効力は双方の債務が相殺できる状態になった時までさかのぼります。
自働債権は弁済期に達している必要があります。自分が負う受働債権については、期限の利益を放棄できる場合、自分で期限を放棄して相殺することができます。反対に、自働債権の弁済期がまだ来ていないのに、相手方の期限を一方的に早めて相殺することはできません。
弁済期の定めがない債権は直ちに請求できるため、自働債権として相殺に用いることができます。
相殺では、自働債権の弁済期が来ているかを先に見ます。
相殺できない場面
時効によって消滅した債権でも、時効で消滅する前に相殺できる状態になっていた場合は、自働債権として相殺できます。「時効完成後だから一切相殺できない」とするのは誤りです。
悪意による不法行為に基づく損害賠償債権や、人の生命・身体を害する不法行為などに基づく損害賠償債権については、被害者側が現実に賠償を受けられるよう相殺が制限されています。加害者が自分の別の債権を使って一方的に賠償債務を消すことはできません。一方、被害者側から相殺することまで禁止する規定ではありません。
差押えを受けた債権を受働債権とする場合、第三債務者は、原則として差押え後に取得した債権による相殺を差押債権者に対抗できません。差押え前から取得していた債権による相殺とは区別します。
時効債権は以前に相殺適状なら可、不法行為・差押えには特則があります。
譲渡制限特約がある債権
債権は原則として譲渡できます。当事者が「この債権を譲渡しない」とする譲渡制限の意思表示をしていても、現在の民法では、その意思表示に反してされた債権譲渡自体は有効です。
ただし、譲受人が譲渡制限を知っていた、または重大な過失によって知らなかった場合、債務者は譲受人への履行を拒むことができ、譲渡人に対して弁済その他の債務消滅事由を主張できます。
そのため、譲渡制限を知っていた譲受人は債権を取得できないという言い方は現在法では誤りです。債権は譲渡されますが、債務者を保護するため履行拒絶などの効果が認められます。
将来発生する債権も譲渡できます。将来債権を譲渡した場合、債権が実際に発生すると譲受人がその債権を取得します。
譲渡制限特約があっても譲渡は有効。悪意・重過失の譲受人には債務者を保護します。
債権譲渡の対抗要件
指名債権を譲渡したことを債務者に対抗するには、譲渡人から債務者への通知、または債務者の承諾が必要です。譲受人が自分だけで通知したというだけでは、原則としてこの通知にはなりません。
さらに、同じ債権の二重譲渡などで譲受人が債務者以外の第三者に対抗するには、その通知または承諾が確定日付のある証書によってされている必要があります。
| 対抗する相手 | 必要なもの |
|---|---|
| 債務者 | 譲渡人からの通知または債務者の承諾 |
| 債務者以外の第三者 | 確定日付のある証書による通知または承諾 |
債権が譲渡された後の相殺では、債務者は、原則として対抗要件が備わる前に取得した譲渡人への債権を使った相殺を、譲受人にも対抗できます。
債務者には通知・承諾、第三者にはさらに確定日付を確認します。
本番の形で解いてみる
基本の問題(まなクエの問題集から)
代位弁済と抵当権について正しいものはどれか。
- 保証人が代位弁済した場合、抵当権は保証人に移転する
- 第三者弁済があった場合、抵当権は消滅しない
- 代位弁済は債権者の同意がある場合のみできる
- 保証人が代位弁済した場合、抵当権は消滅する
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正解: 保証人が代位弁済した場合、抵当権は保証人に移転する
保証人等が代位弁済した場合、債権および担保権(抵当権)は弁済した保証人に移転する(民法499条・501条)。
事例で判断する問題(この節のために作った問題)
AがBに対して有する100万円の債権には譲渡制限の特約があったが、Aはその債権をCへ譲渡した。Cは特約を知っていた。現在の民法による記述として正しいものはどれか。
- 譲渡制限特約に反するため、AからCへの債権譲渡は当然に無効である
- Cが特約を知っていても債権譲渡自体は有効だが、Bは原則としてCへの履行を拒むことができる
- Cが特約を知っていた場合、Bが承諾すればAからCへの譲渡が初めて成立する
- 譲渡制限特約のある債権は、将来債権である場合に限り譲渡できる
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正解: Cが特約を知っていても債権譲渡自体は有効だが、Bは原則としてCへの履行を拒むことができる
譲渡制限の意思表示があっても債権譲渡自体は有効です。ただし、譲受人が悪意または重過失の場合、債務者は原則として譲受人への履行を拒めます。
事例で判断する問題(この節のために作った問題)
AはBに対して弁済期の到来した100万円の貸金債権を有し、同時にBに対して100万円の代金債務を負っている。相殺について正しいものはどれか。
- Aが相殺するにはBの承諾が必要である
- Aの相殺の意思表示には、停止条件を付けることができる
- Aが相殺の意思表示をすると、原則として双方が相殺に適するようになった時にさかのぼって効力を生ずる
- Aの貸金債権が時効で消滅していれば、時効完成前に相殺適状にあった場合でも相殺できない
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正解: Aが相殺の意思表示をすると、原則として双方が相殺に適するようになった時にさかのぼって効力を生ずる
相殺は一方的な意思表示ででき、条件・期限を付けられません。効力は相殺適状となった時へさかのぼり、時効完成前に相殺適状なら時効で消滅した債権でも相殺に使えます。
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宅建の問題を解く →出典: e-Gov法令検索「民法」。このページの法令は令和8年(2026年)4月1日現在の法令にもとづきます(e-Govで確かめた日 2026年10月11日)。このページの作り方と確かめ方